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中岡源権さんを偲んで

 2009(H21)3.8 日本を代表する照明技師中岡源権さんがお亡くなりになりました。

 この業界にいる方なら誰でも知っているという大御所です。作品歴、ダイナミックな画作りからもスケールの大きさを感じさせる存在感ある方でした。

 1945(S20)大映京都撮影所照明部入社から1971(S46)大映倒産まで在籍、その翌年より映像京都株式会社設立に参画、取締役として、また日本の映画照明の第一人者として活躍され、その生涯を映像照明に捧げられました。昭和60年代初めから今日に至る四半世紀の中岡さんの歴史は、嵯峨映画の歴史でもあります。「226」「利休」「豪姫」「陽炎」から晩年の「たそがれ清兵衛」(日本アカデミー賞最優秀照明賞受賞)「隠し剣鬼の爪」に至るまで殆どの作品で弊社の機材と助手が携わりました。

 中岡さんの感性は誰にも真似のできない独特のものです。大胆なライティング構図の裏側には緻密な計算があり、その計算がバッチリ合っているようなスゴさがありました。彼のファンには今現役で活躍している照明技師が数多くいらっしゃいます。

 中岡さんの技術、仕事に対する真摯な姿勢、また、常に新しいライティングに挑戦する心構え、そういった目に見えない無形の財産を私どもの会社はいただきました。特に時代劇のライティッグの技法はすばらしく、どんな状況にも応えられるように常に研鑽を積んでおられました。その姿勢、技法を引き継ぎ、未来に繋げなければという思いはもちろんあります。しかし、もう一方では彼のようなダイナミックで天才的な技師はもう現れないだろうという思いも正直なところあります。映画全盛期の大映撮影所は作品のためなら時間、金額を度外視できました。思うように人もライトも扱えた、現場の技術者にとっては大変恵まれた時代、そんな時代背景と個性がうまく噛み合ったからこそ彼のような逸材が生まれたのだと思います。

 大映倒産後、映像京都が設立され、独立プロとして元大映で働いていたスタッフを中心に映画、テレビドラマをつくり始めました。大映倒産は現場主義の時代の終わりでもあります。予算、時間、規模ともに制約がありその範疇で作品を仕上げなければなりません。中岡さんの作品に弊社が本格的に携わるようになったのは、映像京都設立後10年経った1985(S60)頃からでした。その頃はまだHMIライトは開発されておらず、アークライトが一番大きなライトで、中岡さんは好んでアークライト使われました。このライトについては、中岡さんのアドバイスに従って購入したという経緯もありましたので、責任を感じておられて、常に採算が取れるようにと気にかけていただきました。今の若い社員たちはアークライトを点けた光を見たことがありません。機材は日進月歩、お金さえ出せばすぐ手に入るし、どんなに酷使しても文句を言いません。人は違います。3K(キツイ、汚い、危険)当たり前の現場で日々の仕事をしながら育てていかなくてはなりません。言い方を替えると、日々の仕事を続けていく中で心と体が鍛えられ、先輩の仕事ぶりを見てれば自然に育つのです。助手の中には、途中で音を上げたり、ストレスで十二指腸潰瘍になる者もおります。特に、中岡さんの現場は大変厳しく、撮影が終わるとみんなボロボロになって帰ってきます。社員の中には中岡さんの現場に入るのを嫌がった者もいました。その時、「今しんどいかもしれへんけど、後々君が技師になったときの信用に繋がるからしとき。」と言って説得したことを懐かしく思い出します。

 私には、過去を振り返って、あの時代は良かったと羨んだり、懐かしがっている暇はありません。まず、需要を確保すること、需要がなければ技術というものは衰退してしまいます。ステージがあってこそ技術が発揮できると思います。レベルの高い技術を手本に、少しでもそれに近づこうという気概をもった技術者が仕事できる環境を整えることだと思っています。もちろん、この作業は私ひとりで成し得ることではなく、現場をスーパーバイズする人が必要です。弊社は今まで多くの技師に支えていただきましたが、中岡さんはその中でも、もっとも厳しいスーパーバイザーでした。

 仕事に対しては大変厳しく、妥協されませんでしたが、普段はとても優しくてお二人のお孫さんに向ける目は好々爺そのもの、ご家庭をとても大事にされていました。とてもきれい好きで、年末になると事務所の換気扇をピカピカに磨いて下さいましたし、お料理はプロ級、高野豆腐の含め煮やきんぴらゴボウはホントに美味しかったです。

 享年80歳、ご冥福をお祈りいたします。

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中岡源権さんと
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