「たそがれ清兵衛」―現場リポート―
宮西 孝明

■クランクインまでの話

 山田洋次監督が時代劇を撮るのが初めてだという事であり監督がいろんな所や本などで勉強しておられるのがインする前から伝わってきました。勿論、照明の事であるとか、美術、装飾、衣裳、かつらなど細かな所まで気にしておられました。特に気にしていたのが現場での雰囲気を大切にしようとしていたみたいです。役者には出来るだけ気を配り、現場であまり大声など出さないようにといわれていました。そしてオールスタッフ打ち合わせの時に、監督が照明技師の中岡さんにスタッフの前でいきなり現場ではあまり大声を出したり怒鳴ったりしないように気をつけてくださいとみんなの前で注意をされました。照明部の皆はなにもスタッフの前でそんなこと言わなくても、個人で言ってあげたらと思っていました。

 このことにより現場の照明がだいぶんやりにくいなーとみんな思っていました。中岡さんは昔から大声を出したり怒鳴ったりしてライティングをして、それで周りのスタッフも気が引き締まり、現場に緊張ができとてもいい雰囲気を持っている人だなと思っていました。それが今回出来なくなると言うことはどんな現場になるかあまり想像できませんでした。

■クランクイン

 3/1にクランクインをしました。いったいどういう現場になるのかなーと思いつつフタ を開けてみれば監督が現場で一番うるさく、大声を出してあれこれみんなに指示していたり、役者にも大声で注文を付けていた……ように見えたのは、気のせいでしょうか?

 その後ろで中岡さんは笑っていましたけど。

 ようやく照明の話になりますが、今回スタジオは勿論の事、ロケーションが多く、しかも長野にセットで清兵衛の家につながるオープンセットを建てたのです。しかもロケから撮影するのではなくセットからの撮影でしたので、セットとオープンでつながっているシーンはどうしたらよいのか中岡さんも頭を抱えていました。しかしセットの家の作りがかやぶきの家で、あまり直射が家の中に入ると言うこともないので、セットの撮影では、バウンスシルクやカポックなどで、フレアを作り家の中に光を回すという形がほとんどでした。また、つながりがないシーンなどでは、縁側に直射を入れてみたりはしました。

 クランクイン前よりカメラマンの長沼さんと、中岡さんの話の中で、より、自然なライティング、セットでのDシーンなどではフレームの中で見えている障子等があれば、そこからしか光が回ってこないようにと、フレームに対してのライティング、ナイトシーンは行灯からの光、及びイロリ(囲炉裏)からの光、これは、当然の事ではありますが、いざ、行灯の位置が決まりライティングをしだすと、なかなかうまくいかない時もありますけど、さすがは中岡さん、いろいろなやり方をしてきます。これは口で説明するよりも出来れば映画を見てください。

 またロケーションに関してもナイトシーン以外のDシーンでは、なるべく自然の光で撮影するようにしました。タイトルに「たそがれ」ということもあり夕方から日没の撮影も何回かありました。そういった時もライトはあまり使わずに人物に対しての最低のおさえだけをつけ、日没のタイミングのいい時をねらって撮影しました。

 ラストの清兵衛が戦いが終わり家に帰ってくるシーンでも夕方の太陽をねらい、イッキに撮影しました。この夕方のシーンも自然光で、人物に対しての最低のローだけはライトで補助しました。

 今回これといった特殊な機材とかは使用してませんが、唯一子供が夜、御手洗から帰ってくるシーンで、行灯を手に持っていてその火を消して、行灯をあがりかまちの上に置き子供が家にあがりフレームアウトしていくというシーンで、リモコンライトを使用しました。これはクランクイン前よりわかってたので、前もってライトロンの村越氏にお願いして、作っていただいたもので、アンドンの中にバッテリーと送信機を仕込み、離れたところでリモコンでけすといったものです。ほかの夜のシーン等でも使用できたらなーと思っていたのですが、中岡さんの絞りに合わず、使用不可となってしまいました。

 以上かんたんですが、報告終わります。